HRテック導入のメリットは業務効率化だけではない
働き方改革により生産性向上が叫ばれる中、業務のIT化の流れが進んでいます。
特に労務分野ではHRTechとしてここ数年で急激にサービスが増えました。
しかし、まだ始まったばかりという感じで普及までにはもう少し時間がかかりそうです。
東京などの都会でもまだまだ普及は進んでいません。
大分などの地方ではその傾向がさらに顕著で、ITと聞くだけで「よくわからない」「今までのやり方でもなんとかなっている」という声が聞こえてきます。
労務のIT化と聞くと業務効率化が真っ先にイメージされるでしょう。
確かに業務効率化はIT化の大きなメリットのひとつです。
しかし私は、IT化のメリットはそれだけではなく、もうひとつ大きなメリットがあると考えています。
それが「業務適正化」です。
今回はなぜ業務適正化がメリットになるのかを解説します。
目次
なんとなくで労務管理していませんか?
私の社労士としての経験上、現在の労務管理の方法が法的根拠に基づいていない事業所が多いと感じています。
つまり、正しい労務管理ができていないということです。
一応、本やネットで調べて自分なりに仕組みを作るのですが、表面的な知識しかないため細かいところで間違った仕組みづくりをしてしまっている。
昔からこの方法でやっているから特に疑問を持たずに方法を引き継いでいる。
この傾向は、特に社労士が入っていない事業所に多いです。
社労士が入っていたとしても、その社労士が単なる手続き業務しかしておらず、規程整備などに積極的でない場合にも多いように感じます。
具体例と影響
具体例をあげると、特に影響が強く、間違っていることが多いのが「勤怠管理・給与計算」です。
勤怠管理
正しい勤怠管理のためには、労働時間や休日を正しく設定する必要があります。
ここがなんとなく決められている事業所は非常に多いです。
1日8時間、週40時間を超える時間は、きちんと時間外労働として集計されているでしょうか?
業界の慣習で土曜は出勤だからと、土曜の労働時間を時間外として集計していないということはありませんか?
サービス業は休日が少ないのは当たり前だからと、休日が月に4〜5日程度しかないのに休日労働が集計されていないということはありませんか?
また、労働時間や休日の設定だけでなく、始業終業時刻を適正に把握する必要もあります。
出勤簿がないという事業所や、あっても印鑑を押すだけのものだったりをよく目にします。
出勤簿は法定3帳簿のひとつなので作成・保存は必須です。
始業終業時刻の適正把握に関しても、今回の働き方改革により客観的にわかる方法で管理することが必要となりました。
給与計算
まず勤怠管理が正しくできていないと、当然給与計算も正しく行えません。
前述の勤怠管理が正しくできている前提で話を進めます。
よく間違いがあるのが割増賃金の単価設定です。
例えば時給の場合、単に時給単価に割増率をかけた金額を割増賃金の単価にしていることがよくあります。
時給であっても役職手当などが月額で付いている場合は、その額を時給に換算して割増賃金の単価に含める必要があります。
家族手当や住宅手当は割増賃金の単価から外すことが可能ですが、それは家族1人当たり5,000円や、家賃の30%など、支給基準が明確になっている場合だけです。
一律10,000円といった方法の場合は割増賃金の単価から外すことはできません。
また、時間外手当を固定額で支給する、いわゆる固定残業代を導入している事業所もあるでしょう。
固定残業代には正しい運用方法があります。それは以下の方法です。
①その固定残業代が何時間分の残業代なのかを算出し、労働条件通知書などで明確にする
②毎月時間外労働が何時間だったかを把握し、当初設定した時間数を超えた場合は超えた時間分の残業代を別途支給する。
この手順を踏まずに見かけだけ残業代を支払っているようにしている事業所もよく目にします。
会社への影響
勤怠管理と給与計算が正しくできていないことによる会社への影響は大きいです。
まず勤怠管理では、従業員の健康管理で影響があります。
気づかないうちに過重労働させてしまい、事故が起こった場合に会社の管理責任が問われかねません。
特に過労死などの重大事件であれば会社が賠償する金額は莫大な額になり、社会からの信用も失う可能性が高いです。
また、勤怠管理・給与計算の両方が関係することですが、未払い賃金の問題もあります。
本来払うべき残業代などが支払えていなかった場合、従業員からの請求や監督署の調査などにより支払う必要が出てくることがあるでしょう。
給与の請求時効は2年なので、最大で2年分遡って支払うことになる可能性があります。
毎月2万円の未払いがあったとして、2年間で48万円。それが10人だと480万円です。
中小零細企業にとってこの金額は影響が非常に大きいのではないでしょうか?
現時点で問題が表面化していないので深刻に考えていない場合が多いですが、正しくできていない場合は早急に対応すべきです。
労務管理をIT化すると?
労務管理をIT化するためには、まずは初期設定しなければなりません。
初期設定を機に自社の方法が間違っていたことに気づき、規程整備するきっかけになります。
ソフトで勤怠管理すれば、始業終業の時刻は強制的に把握され、時間外労働や休日労働も集計されます。
ソフトによっては、あらかじめ設定した時間数に近づくとアラームしてくれる機能もあります。
ソフトで給与計算すれば、手当の時給換算は自動的にされますし、勤怠で集計された時間外労働時間が固定残業代の設定時間外労働を超えた場合には超えた分だけ支給する計算を自動でしてくれます。
もちろん社会保険料や所得税率も自動計算・自動更新してくれるので計算ミスを減らすことができます。
給与明細をWeb配信にすれば、予め設定しておいたメールアドレス宛に明細発行通知が届き、実際に明細を見るためにはパスワードが必要なため、誤って封筒に他の人の明細を入れてしまったというミスを防ぐことができます。
このように業務をソフトで自動化することで業務の適正化に繋がります。
よくある落とし穴
では単にソフトを導入するだけでOKでしょうか?
ソフトにより業務を自動化するためには、初期設定が非常に重要になります。
間違った設定でソフトに処理させていては、業務適正化のメリットを受けることができません。
これまでのように、なんとなく設定してはダメなのです。
初期設定に自信がないのであれば、専門家の導入支援を受けることをおすすめします。
せっかく月々の使用料を払っているのにメリットを最大限に受けられないということを防ぐためにも、どうせ導入するなら初期設定にも費用をかけましょう。
まとめ
今後、業務のIT化は急速に進んでいきます。
IT化の一番のメリットは業務効率化でしょう。
しかし、そのメリットは大規模事業所であるほど大きくなり、小規模事業所では小さくなります。単純に従業員数が多い方がやるべき業務が多いため、IT化により省略される業務が多くなるからです。
そうして業務効率化だけに目を向けていると、小規模事業所だからIT化は必要ないとなってしまうのです。
そうではなく、小規模事業所でも業務適正化というメリットに着目し、導入を検討すべきです。
業務適正化は労務リスクを減らすという会社側のメリットだけではなく、従業員の安心感や満足感にも繋がります。
人手不足と言われる時代ですので、こういったことでも会社の価値を高められるのではないでしょうか?